ナラティブセラピーとしてのゲーム「That Dragon, Cancer」
誰もがとても個人的な経験をコンピューターゲームで表現できるようになると、人や社会はどう変わるのだろうか?
もうすぐやってくるその世界を予見させるゲームが「That Dragon, Cancer」だ。このゲームは病気で子どもを亡くした家族が、その経験をアドベンチャーゲームに仕立てたゲームである。ゲームの内容は「インディーズゲームの小部屋:Room#414「That Dragon, Cancer」 – 4Gamer.net」で紹介されている。
このゲームの特別なところは、その目的だ。通常のゲーム制作ではゲームをつくるためにテーマやストーリーを持ってくるが、このゲームは自分の子どもが不治の病になったことをきっかけに制作を企画している。その最大の目的は当事者のどうにもできない苦しみや悲しみへの癒やしである。心的外傷を負った人がその体験を言語化することで乗り越えるナラティブセラピーという療法があるが、そのコンピューターゲーム版と言える。
その制作過程をテレビドキュメンタリー「ずっとあそぼう 息子よ | BS世界のドキュメンタリー | NHK BS1」で知った。父親がゲームディレクターとなって制作を進め、家族で内容を検討して、ゲームの登場人物の声もそれぞれ当人が演じている。制作を進める中で、家族は子どもの死を受け入れていく。
そして、プレイヤーは見ず知らずの人の個人的でナイーブな体験をゲームを通しておぼろげながらも追体験をすることになる。ゲームとしての評価や制作意図に対する意見は賛否両論あるだろう。しかし、ゲームプレイの評価はあまり重要ではないと思う。子どもは亡くなってゲーム内の「実在」を残し、ゲームを完成させて他者と共有したことでゲーム制作過程が意味を持ったことで、当事者の「癒やし」という大きな目的は既に叶っているのだから。
ゲームはMac/Win/iOS他に対応し、以下で購入できる。
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